海外研修セミナー(2016年度)[専門科目(300番台)]
イスラム社会の理解とイスラム金融の基礎を学ぶ 那須 義輝さん(フレックスコース1年)
1. 掲題目的に関してどのような問題意識をもってマレーシア研修に臨んだのか?
社会人生活の大半を、欧米系グローバル投資銀行を中心とする金融機関のお客様に対する様々なITソリューション提供活動に従事して参りました。活動を通じて、銀行であるにもかかわらず利子を禁止するなど、西側の金融ルールとは大きく異なるイスラム金融の存在を知っていたものの、具体的な内容に触れる機会には恵まれず、長くその名前だけが印象に残っていました。今回、研修を通じてイスラム金融理論の一端に触れることが可能との説明を受け、長年の疑問を氷解する好機と捉えたことから、海外研修に参画することとなりました。
2. 研修を通してどのようなことがイスラム社会の現状を理解すること、およびイスラム金融の仕組みを理解するための端緒となったのか?
イスラムに抱くイメージが中東社会とイコールだと認識していた自分自身にとって、中東から遠く離れたアジアのマレーシアでの暮らしにイスラム文化が深く根付いている事実そのものに驚かされました。
初日に訪問したIslamic Banking Finance Institute Malaysia(IBFIM)が自国中央銀行からの様々な支援を得ていながら、自国のみにとどまらず、世界規模でのイスラム金融従事者に対する教育支援を行っている事実は、イスラム金融あるいはイスラム社会全体でのリーダー国としての自負を強く感じるものでした。
翌日の訪問先であるDeloitteでは、イスラム金融の基礎知識、特に出発前から疑問に感じていたNo riba(無金利)の考え方を標榜するイスラム金融機関が西側金融機関との競争に劣後することの無いよう、イスラム教義に照らし合わせるためのShariah Boardの設置に関する仕組みそのものの説明(シャリア適格)を具体的な事例を交えて紹介頂き、理解を深めることに役立ちました。その後、イスラムの州税(Zakat)を徴収する機関であるPPZ(Zakat Centre)を訪問し、一般市民の日常生活である納税についてもイスラム教の考え方が色濃く反映している事実を確認できました。
今回の訪問である意味一番驚いたのは、水曜日のUniversiti Sains Islam Malaysia(USIM)Faculty of Economics and Muamalat(FEM)において、イスラム教のMBAコースが存在し、多くの学生が学んでいる事実でした。この事実は、学んだ物事を将来活用可能とする社会が存在しうることを証明しており、通常日本人が宗教に抱いている心の拠り所としての役割にとどまらず、社会全体の活動の根本そのものをイスラムの教えが構成していることを端的に表すものと受け止めました。
木曜日のCIMB Islamic BankおよびBank Muamalatでは、現在の顧客の52%がノンムスリムであり、中国人(華僑系)の顧客比率が高く、イスラム金融がマレーシア経済に占める割合が26%に過ぎないとの説明や、イスラム金融機関といえども西側金融機関同様の富裕層向けビジネスに乗り出し、顧客獲得に奮闘している様子が迫力を持って伝えられ、私たちが通常理解している西側の金融ビジネスと根底では何ら変わりえないのだということを端的に示す好材料となりました。
最終日に訪問した、華僑富裕層のご家庭の立派なお宅を拝見させて頂いたことは、経済格差も厳然と存在する圧倒的な現実として、イスラム中心の社会を見学した後だっただけに、バランスよくマレーシアの現在を知りうることに大きく役立ったと思われます。
3. 今後さらに深く学ぶべき自身の課題として何を発見したのか?
これまで、自身のグローバルビジネスを通じて得られた経験の大半は欧州および北米とのやりとりであり、文化的背景の理解も西側の社会体制そのものが中心でした。しかしながら、世界人口の多数を占めるイスラム文化に対する知識を一切有さないのは、グローバルに活動する上でいささか不十分であったのではないかと、今回の研修に参画して気づきました。 昨今発生する様々な事件、とりわけISの活動などから“イスラム”という言葉はテロの印象が激しく”怖い“というイメージが根深く付きまといます。私たちがイスラムに抱く不安はイスラム金融に代表されるような西側と大きく異なるシステムそのものへの無知に代表される”無関心“にこそ誤解を招く原因があるのではないかと考える次第です。
今回のマレーシア訪問で、私自身のイスラムへの無関心は少なくとも払拭されたと確信します。イスラム社会・文化の特徴を知ることを通じ、世界の多くの人々が生活の根幹としているイスラムが“なぜそのような考え方なのか”を正しく理解することは、経済活動のひとつであるイスラム金融の考え方を理解することにとどまらず、グローバルで議論すべき課題を正しく判断するうえで欠くべからざる必要条件であると考えます。今回の訪問を今後のグローバルビジネスに役立てたいと考えています。