「組織の真の問題を見極める『問題設定能力』とその問題を解決するための『思考法』を学ぶ」
甘利 岳人さん(2015年度フレックスコース入学)
オペレーションズ・マネジメントは、元来戦時に“作戦”という意味で使われていた“オペレーション”という言葉を使っている通り、作戦を遂行する上で使われていた考え方や手法を現代のビジネスに応用したのがその起源である。授業では、戦略とマーケティングからの要求事項をいかに実現し実行するのかについて、プロセスやシステムのマネジメントの視点から学習していく。現実社会に言い換えれば、経営陣が考え設定した戦略/市場とそれを実践する現場の関係を理解し、個々の業務(オペレーション)の意味と重要性を組織(あるいはシステム)全体から俯瞰して把握する能力、さらに全体最適化を実現する考え方を学んでいくイメージである。
これらの学びは主に様々な業種のケース、例えばメーカー、病院、ファッション業界など、を授業前に読み込んでおくことから始まる。授業中においては、様々なフレームワークを学びながら、ディスカッションを中心としながら事例を分析していく。そして、何と言ってもこの授業の醍醐味は、答え探しを重視していない点である。もちろん、一番に評価される答えはあるかもしれないが、現実社会を考えると、いろいろな考えや視点があり、自ずと答えは一つにはならないのは当然である。それよりも、今まさに組織が直面している真の問題は何なのか、それを正しく設定する能力を磨いていくことの大切さを学ぶことができる。間違った設定から導き出した答えは当然のことながら的外れであるので、正しく問題を設定する能力がより重要なのである。組織で業務をマネジメントする立場もしくはそこを目指す人には、日々の業務への考え方・問題提起とその解決能力への思考法を磨くことができる、実践に近い科目である。
教授方法は、講義、ケースディスカッション及びシミュレーションなど様々なスタイルが使われているが、講義スタイルであっても積極的な発言が求められる。最初の頃は、授業中に出された問いに対して今まで学んで来た事や経験をベースに回答していくが、その悉くを先生にもう一つの視点を指摘され撃沈したり、同級生同士で意見が衝突したりと、一つ一つの発言にも緊張感もあった。 実際、私自身も積極的にチャレンジして、何度も返り討ちに会い、その都度新しい発見と、時に少しの悔しさを味わったことを今でもよく覚えている。しかし、何度も考え、意見をぶつけて、何度も指摘される事を繰り返すことで、答えではなく、その考え方に問題がないかを考えるようになる。そして、段々に、考え方の視点が偏っていないか、全体との整合性は取れているかなど、近視眼的な考えから離れ全体を見渡しながら考える訓練となり、最終的には、新しい思考法が身についていくきっかけとなっていった。
そして、なんといっても最終課題である。グループワークとして、とある航空会社のケースを最終課題として与えられるが、これがとにもかくにも難しくもあり面白い。4人のチームでその企業の戦略や関係する市場を考え、そして実際の現場、ここでは空港のオペレーションを分析し、出された課題の答えを考えてレポートにまとめていく。期間は1ヶ月ほどあり、チームで何度も平日の夜や休日に集まり、財務データやフレームワークを駆使して企業の戦略や業界を取り巻く競業他社や市場などの分析をする一方で、施設稼働率や職員インタビューなどから空港で働く職員の業務の詳細を分析するなど、全く視点の違う複数の分析を進めていく。しかし、分析を進めていくと、一見バラバラであった分析結果が、原因と結果と言うように一つのストーリーとして全体がつながっていき、そこから企業の戦略次第では最前線の現場の業務もその最適解が変わっていくと言う“オペレーションズ・マネジメント”の意味、そして醍醐味が理解出来る瞬間が突然訪れる。最終課題への取り組みは本当に大変な1ヶ月だったが、卒業まじかの今でも当時のチームメンバーや意見をぶつけ合った同級生共にこの最終課題の話になるとすぐに盛り上がってしまう程、皆その時期は集中して取り組んでいた。もう一回と言われると躊躇するほど大変な体験だったが、そこから、企業の戦略、市場そして現場との間にある業務上の課題について、その真の問題を見極める「問題設定能力」と、その課題を解決する為の「思考法」を学ぶ事が出来た。
この授業で得たもう一つの事は、多数の意見をぶつけて、そこから自身で考えて答えを出すと、一人で考えるよりも何倍の発見があるという事である。この授業の中では、何回も貴重なグループワークを経験することができて本当によかった。そこから得た知識や考え方を、日本のメーカー企業に勤める者として、普段、企業の戦略、予算、事業戦略策定そして現場業務の遂行などに振り回されている自分だが、与えられた業務の真の課題を見抜き、その問題解決にリーダシップを発揮していく事が、私のこの授業を通じての、またビジネススクール卒業後の使命だと感じている。
(2017年4月掲載)