プロサッカー選手からビジネスの世界へ

津田 和樹さん(2012年度フレックスコース修了)

津田 和樹さん

高校卒業後、プロサッカー選手として2001年清水エスパルスに入団。04年ヴァンフォーレ甲府、05年FC町田ゼルビアへ移籍し13年に引退。現役中の12年にABS修了。13年より現職。

1. 現在の会社・仕事内容

ABS修了後プロサッカー選手引退を機にJSR株式会社に転職。17年よりドイツ現地法人JSR Elastomer Europe GmbHへ出向しタイヤ用素材(S-SBR)の販売戦略立案、海外顧客渉外、市場分析、欧州・米州マーケティング、現地法人運営に従事。

2. 何故ビジネススクールへ進学したか

・引退後のキャリア基盤形成→「今よりも将来を輝かせる」、「選手時代を人生のピークにしない」という自己実現の為。

入学前年時点で9年のプロ生活を過ごし、選手としての実力・立ち位置・今後のキャリア推移がおぼろげに見え、自身の将来に強い危機感を覚えたことがきっかけでした。私のサッカー選手としての立ち位置は日本代表に選ばれるような一流選手ではありませんでした。また専門知識もサッカーという狭い枠組みの中で辛うじて通用する程度しか持ち合わせておらず明らかに装備不足と言えました。

引退後どの業界に飛び込もうとも経営・組織運営から完全に切り離されない世界が待っているのであれば、「個人としての希少性」、「引退後の選択肢拡大」も踏まえ現役中にMBAを取得することが不可欠との結論に至りました。

3. ABSでの学び

・経営理論の理解深化と徹底的な思考の深堀

・独学では得ることのできない議論の時間

ABSでの2年間の学びが自身のキャリア基盤形成に大きく寄与したと考えています。私の場合入学当初ビジネスバックグラウンドが全く無かった為、ディスカッション以前に「この単語の意味は?」という所から始まりました。膨大な課題が与えられる中、予習の為の予習が必要であり絶望することも1度や2度ではありません。「何故そうなるのか?」、「こういった場合どうなるのか?」など議論や課題を通し思考の深堀を求められ当初は思慮の浅さに愕然とする日々を過ごしていました。ただそのような逆境の中でも与えられた課題に加え己に課したノルマをコツコツとやりきることで経営理論の習得・理解深化、徹底的な思考の深堀が自身の血肉となったと実感しています。

また、それにより副産物としてアスリートとしての強み・転用スキルを再認識することも出来ました。個人・組織に拘らず現状を正しく把握し、課題解決の為PDCAを高速に回すことが出来る、自身・チームの技術向上、課題解決のために己との対峙を常日頃行い、それが当たり前のこととして身についているアスリートに一日の長があるのではとも感じました。経営とアスリート、一見すると共通項は見えませんが本質的に行っていることは同じであると認識できたこともABSでの大きな気づきの1つです。

教授からの教えは勿論のこと、経営者・サラリーマン・起業を目指す若者などバラエティに富んだバックグラウンドを持つ同期との議論を重ねた濃密な時間は刺激や気づきの連続であり、一歩ずつ着実に経営理論の理解を深化させ、私の経営視座を1段も2段も高めるものになりました。

4. ABSでの学びとアスリートとしての経験が、今の仕事にどのように役立っているか

・横断的・多面的に物事を捉える視野と知識が対応可能な業務の幅を圧倒的に拡張させる。

現在出向中のドイツ現地法人は少数精鋭で、私は本業の営業/マーケティング以外にアドミ関連業務(経理・人事・総務等)も担っています。専門外の業務を管理することは確かに骨が折れることではありますが、これまでに身につけた横断的な知識と思考の深堀が専門家である担当者と議論・結論を見出しスムーズに業務を遂行することに大いに役に立っていると実感しております。

特に文化的・宗教的背景、母語も異なる上司・同僚・部下を英語で説得するにはしっかりとしたロジックかつ数字で表すことが不可欠です。横断的な知識だけでなく「どうロジックを組むか」、「根拠以前にその基となる論拠は何か」それらを考え抜いたABSでの訓練は大きな武器になりました(残念ながら英語ネイティブに言葉の応酬で勝てるほどの言語能力がないので)。

更にそれを当たり前にやりきることも重要な視点です。時間的制約・言語能力・バックグラウンドの差異もあり時には「もういいか」「ここまでで充分か」と思うことはしばしばあります。ただそこで状況に流されず、求められる以上のものに仕上げようとするマインドは上記したアスリート時代の習慣があったからと考えています。

5. これからビジネススクール進学を検討している現役アスリート、元アスリートの方へ

進学を検討した際「授業についていけるか」、「変わった経歴から門前払いをくらうのでは」と考えていましたがそれは全くの杞憂でした。「学びへの意欲・熱意」があるものに門戸は常に開かれており、心から歓迎する風土がありますので心配には及びません。

また、上記の通りアスリートには大きな強みがあることも覚えておいて頂きたいです。「○○しかやってこなかったから」、「○○界でしか生きていけない」という思考は自身の強みを見落とし、可能性を狭め非常にもったいないと感じます。

目標に向かい弛まぬ努力をし続ける、己・組織を俯瞰し常にベストを求め続けることが出来るということはアスリートには当たり前すぎて特別なものとは気づかずにいる場合も多く見受けられます。しかし、これらの才はどんな業界に飛び込もうとも重宝されビジネスに不可欠な信頼という大切なものを築く大いなるアドバンテージになります。

貴重な転用スキルを持っているアスリートが1人でも多くビジネススクールの門戸を叩き、そこから大いに羽ばたくことを願っています。

私はそのことが自分を育ててくれたスポーツ業界・競技の更なる発展にもつながっていくものと、信じております。

プロサッカー選手時代の津田 和樹さん

ABSのトップページへ