2024.03.15
2024年3月1日に、須田敏子教授の著書『ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定―人的資本経営・賃上げ・リスキリングを実現するマネジメント』(中央経済社刊)の出版を記念するオンラインセミナーが、出版元の中央経済社主催で開催された。
セミナーでは、須田敏子教授とともに、著書においてジョブ型人事の先進事例として紹介されている株式会社日立製作所(以下、日立製作所)とテルモ株式会社(以下、テルモ)で、人事改革に取り組んでおられる日立製作所・人財統括本部グローバルタレントマネジメント部長の鈴木直行氏と、テルモ・アドバイザー/人事部HRビジネスパートナーの竹田敬治氏のお2人が登壇され、登壇者3人によるオンラインセミナーとなった。
本セミナーは、青山ビジネスクール在学生・修了生を含む100人を超える参加申し込み者を得て開催された。参加者の人材プロファイルは経営者を含む企業の実務家、コンサルタント、民間シンクタンク・リサーチャー、労働組合関係者、大学研究者など多岐にわたり、企業実務家の参加申込者は、人事部門を中心としながらも、経営企画・研究開発・営業・マーケティングなどさまざまな職種の実務家が含まれる。このように、参加申し込み者の人材プロファイルは実にダイバーシティ溢れるものであり、これは、本書が幅広い職業・職種にとって関心のあるテーマであることを示すものだろう。この関心の高さは、大企業を中心に拡大するジョブディスクリプションの導入、ジョブに応じたマーケットペイ(市場賃金)を収集するマーケットサラリーサーベイの普及などの日本企業の中での進行する「ジョブ型・マーケット型」という新たな賃金決定方法の急速な普及の結果といえるだろう。
セミナーでは、まず須田教授からジョブ型人事の本質は、ジョブを基準にジョブ遂行に求められる知識・スキル・経験・行動などの人的要件が、「具体化」「見える化」「共有化」にあるとの指摘がなされた。従来の日本型職能資格等級下における職務遂行能力が全般的・抽象的であったこととは大きな違いである。さらに、須田教授からこの人的要件の「具体化」「見える化」「共有化」によって、「人的資本経営」「恒常的賃上げ」「健全な人材流動化」「自律的キャリア開発」「リスキリング」など現下の日本が抱えるさまざまな課題が解決される可能性が高いと指摘された。
次いで、セミナーではジョブ型人事の先進企業である日立製作所とテルモの2社のジョブ型人事の事例が紹介された。2社の実に多様な側面を有す取り組みの中から、自律的キャリア開発に焦点をあてる。2社ともにジョブディスクリプションによって具体的に示されたジョブの内容と人財の要件を組織全体で共有しており(日立製作所は一部組織外にも公開して採用に活用)、「見える化」「共有化」したジョブと人材のマッチングにより「適所適材」を実現(日立製作所では「適所適財」と表現)。「適所適材」に基づき、パフォーマンス向上とともに自律的キャリア開発を目指している。
たとえば、日立製作所では「Will-Can-Must」のフレームワークの活用をキーワードに「やりたいこと(Will)-できること(Can)-すべきこと(Must)」の明確化を通じた自律的キャリア構築の実現を図っている。具体的な施策としては「Will-Can-Must」フレームワークに基づくキャリア研修の入社4年目以上全従業員の実施、グループ公募・社内外副業等の手上げ式のキャリア実現の仕組みづくり、社内エージェントによるマッチング支援・キャリアコンサルティングなどが挙げられる。
一方、テルモは2022年に「キャリア自律」「適所適材」「成長支援」をコンセプトに新人事制度を導入、自律的キャリア開発が目指す方向性の中心におかれている。具体的な施策面では、本人の望むキャリアの実現を目指して初級管理者への登用基準を「原則・社内公募制による登用」に改定。初年度の2022年度には累計約180件の社内公募が実施されており、うち管理職ポストが8割であった。日々の活動では、月1回以上の「1 on 1」が実施され、成長支援のための高頻度のフィードバックが行われている。
また、事前に寄せられた質問を含め参加者から「グローバルで役割が同じでも、給与が国により異なる考え方に納得がいかない人に対してどのような説明が響くのでしょうか」「ジョブ型・マーケットプライシング型において、例えばセールスがある期間に予算に対し著しく高い(低い)成果を上げた場合、賃金にどのように反映されるのでしょうか」「ジョブディスクリプションの作成などは非常に現場部門に工数がかかると思いますが、その点の理解をどのように取ってきたのでしょうか」など非常に具体的な質問が相次ぎ、登壇者から具体例をまじえて丁寧に回答がなされた。
これらの質疑応答を通じて発表内容についての理解がより深まり、充実したセミナーとなった。
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