証券市場分析[専門科目(300番台)]

担当:中里 宗敬教授

「学ぶ喜び考える楽しさを実感した、情熱に溢れた中里先生の授業に贈る、心からの感謝」
江見 睦生さん(公認会計士)(2015年度フレックスコース入学)

私の手許に一つのUSBがあります。このUSBの中に半年間の中里先生から頂いた沢山のデータとともにこの講座を通じた沢山の思い出が詰まっています。

「USBを持参して受講して下さい。」それが中里先生からの開講時の唯一のメッセージでした。一方シラバスには、「この授業では実際の証券データを用いて様々なファイナンス理論を検証する。証券のリスク・リターン特性や証券市場の仕組みを理解し、証券投資や市場についての理解を深めることが目的である。扱うテーマとしては株式のリターン分析、市場の効率性、CAPM、現物先物パリティー、オプション評価、デルタヘッジなどである。・・・・毎回の演習を通じてExcelによるデータ分析の方法や、大規模データの取り扱い方などを修得してもらいたい。」と敷居の高そうな文字が沢山並んでいました。このガイダンスだけではこの授業が万人に開かれた学びの場であるのか、一部のファイナンスマニアックが集う腕自慢大会の場なのかの判断がつきかねました。今思えばその事自体が懐かしい思い出です。

公認会計士が会計監査を行う際に金融工学の専門家の力を借りることは珍しくありません。私はそれを一歩進めてファイナンス理論をしっかりと習得することが公認会計士には必要だと感じていたので、大学院で教えるファイナンスの内容や、学生がそれをマスターして行くプロセスに大いに興味を持っていました。

しかし、我が身を振り返れば出身は法学部。経営やファイナンスの専門教育を受けたこともなく、年齢は還暦に迫り、金融工学レベルのExcelの活用など自信があるはずはありません。見えないハードルを高く捉えれば躊躇が生まれてくるのは当たり前の状況です。しかし、ポジティブにチャレンジすることが当たり前のABSに通っていると、チャンスがあるのにみすみすその機会を逃すことの方が勿体無いことに思えて来ます。そこで、中里先生にはご迷惑をお掛けすることになるのだろうなとは思いましたが、向こう見ずにも受講に踏み切ってしまったわけです。

講義の内容はシラバスの通りです。中里先生からデータを受け取り、データ処理のためのキー操作や作表・作図などの加工の仕方、関数、マクロの使い方等数多くのスキルとファイナンス理論を学んで行きます。しかしファイナンス理論につきものの高度な算式も、その算式自体を解く事に価値が置かれるわけではなく、その意味するところをエクセル操作を通じて理解し考察を進めることになるので、数学的不安もExcel操作に対する不安も授業の中で解消することができます。先生からみたらありえない凡ミスを繰り返してしまう私に対してさえも、恐縮するほどの丁寧さで手を差し伸べて下さり、結局何事もなかったかのように授業を完結して下さいました。この講義の醍醐味は、授業終了後の課題の考察(事後学習)にあるのではないかとも考えています。

文章の最初でUSBに思い出がたくさん詰まっていると書きました。実はその思い出の多くは事後学習での苦闘の痕跡です。USBには私の試行錯誤の痕跡が溢れ出んばかりに残ってしまっています。思ったように自分のスキルは上がらず、考察するには知識が足りない。やるべきことは山ほどありました。おそらく先生には伝わらないプリミティブなレベルで多くの時間を使ってしまうことも珍しいことではなかったと記憶しています。でもそれが仕事に追われて苦しいはずなのに楽しくなり、様々に考察を進めて行く自分の姿がありました。他の受講生のレポートのレベルに驚きながらも授業を重ねて一段一段進化しているという自覚がありました。それはまさに「まんまと先生の術中にはまる」ということだったのかも知れません。

考える土俵を授業で作り、講義後の課題考察を自由な発想で行わせる。講義の最初に受講者で共有し、また考えるヒントを得て行く。我々が今生きている時代、そして市場を観察し、仮説と検証を繰り返すこと。我々が今後とるべきPDCAサイクルを授業を通して教えて頂いている気がしていました。

教える情熱は学生に伝わります。学ぶことを楽しいと感じ、その後の自分の考察に繋げることができるなら、学生は常に学ぶことを誇りに感じ先生への感謝を忘れません。そのような正の循環を、監査の現場に定着させて行きたい。今はそのように考えています。
そして中里先生に対する感謝の気持ちを忘れることも決してないでしょう。